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横浜地方裁判所 昭和61年(行ウ)18号 判決

神奈川県川崎市中原区木月七〇七番地

原告

宝徳不動産有限会社

右代表者代表取締役

加東正收

右訴訟代理人弁護士

杉本良三

伊達弘彦

同県同市高津区久本二六九番一号

被告

川崎北税務署長 大澤敏男

右訴訟代理人弁護士

和田衛

右指定代理人

杦田喜逸

宮地正子

飯島正巳

毛利深雪

遠藤家弘

梅津恭男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年三月二八日付でした

(一) 原告の昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告承認の取消処分

(二) 原告の昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額五五八八万三七七九円、課税土地譲渡利益金額七九六〇万円を超える部分

(三) 重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  本件における中心的争点は、原告が昭和五四年九月二〇日に町田市字金森一二号一七六一番二外一筆土地及び同地上の建物を、代金四億円で本田技研工業株式会社に売ったのか(被告の主張)、あるいは、代金二億五〇〇〇万円で株式会社松本工業に売ったかの(原告の主張)にある。

第三当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯等

(一) 原告の昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、修正申告、これに対して被告のした更正(以下「本件更正」という。)、重加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)の経緯は、別紙一記載のとおりである。

(二) 被告は、昭和五九年三月二八日付で、本件事業年度以後の法人税の青色申告承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をした。

2  本件処分の違法事由

(一) 本件更正のうち、所得金額五五八八万七七九円、課税土地譲渡利益金額七九六〇円を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

(二) 本件決定及び本件取消処分は、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠蔽し又は仮装した事実がなく、また、本件事業年度にかかる帳簿書類に取引の一部を隠蔽し又は仮装して記載した事実がないのに、それがあるとしてなされた点において違法である。よって、原告は、本件更正のうち、所得金額五五八八万七七九円、課税土地譲渡利益金額七九六〇円を超える部分、本件決定及び本件取消処分の各取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  本件取消処分の適法性について

後記2で詳述するとおり、原告は、東京都町田市字金森一二号一七六一番二外一筆の宅地一八八九・三九平方メートル及び同土地上の家屋(以下、右の宅地を「本件土地」、同家屋を「本件建物」といい、これらを一括して「本件資産」という。)を、本田技研工業株式会社(以下「本田技研」という。)に対し四億円で譲渡したのに、これを株式会社松本工業(以下「松本工業」という。)に対し二億五〇〇〇万円で譲渡したかのように取引を仮装し、原告の本件事業年度の総勘定元帳及び損益計算書等の帳簿書類に譲渡収益の一部である一億五〇〇〇万円を計上せず、これに係る所得金額を隠蔽したものであり、右事実は法人税法一二七条一項三号に該当するから、本件取消処分は適法である。

2  本件更正の根拠と適法性について

(一) 原告の本件事業年度の所得金額 二億〇五八八万三七七九円

(1) 申告所得金額 五五八八万三七七九円

原告が昭和五六年三月二三日付で被告に提出した本件事業年度の修正申告書に記載されていた申告所得金額

(2) 本件資産譲渡益計上もれ 一億五〇〇〇万円

原告は、その所有する本件資産を昭和五四年九月二〇日に本田技研に四億円で譲渡し、譲渡原価一億三二九八万四七九〇円を差し引いた譲渡益二億六七〇一万五二一〇円を得たのに、あたかも売手である原告と買主である本田技研との間に松本工業が介在し、本件資産が昭和五四年九月二〇日付で原告から松本工業に二億五〇〇〇万円で譲渡された後、同日付で松本工業から本田技研に対し四億円で譲渡されたように二通りの売買契約書を作成し、両契約の差額一億五〇〇〇万円を松本工業の譲渡益であるように取引を仮装し、右一億五〇〇〇万円の譲渡益を益金の額に算入しなかったため、被告は、右一億五〇〇〇万円を申告所得金額五五八八万三七七九円に加算した結果、所得金額を二億〇五八八万三七七九円としたものである。

(二) 課税土地譲渡利益金額 二億三五八九万九〇〇〇円

原告は、本件事業年度の課税土地譲渡利益金額を、別紙二の申告額欄17記載のとおり七九六〇万円と申告したが、右申告金額には後記(1)ないし(3)に述べるとおり、誤りがあり、正しく計算すれば、別紙二の被告主張額欄17記載のとおり二億三五八九万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数切り捨て)となる。

(1) 土地譲渡による収益の額 三億五八三〇万四〇三四円

別紙二の申告額欄6に記載されている土地の譲渡等による収益の額(二億〇八三〇万四〇三四円)には、前記(一)(2)記載のとおり、本件資産の譲渡益のうち一億五〇〇〇万円が算入されていなかったため、被告は、右申告額欄記載の金額に一億五〇〇〇万円を加算し、被告主張額欄6記載の土地の譲渡等による収益の額三億五八三〇万四〇三四円(別の説明をすれば、本件資産の譲渡価額四億円から、原告の申告した本件建物の譲渡価額四一六九万五九六六円―原告が認める本件資産の譲渡価額二億五〇〇〇万円から、原告が申告した土地の譲渡等による収益の額二億〇八三〇万四〇三四円を差引いた額―を控除したもの)を算出した。

(2) 土地の譲渡等による収益の額に対応する原価の額(別紙二の7欄) 九一二八万八八二四円

本件土地の譲渡直前の帳簿価額は九一二八万八八二四円であり、これが土地の譲渡等による収益の額に対応する原価の額である(なお、原告の申告額は、譲渡した土地の帳簿額の累積額である。)。

(3) 直接又は間接に要した経費の額

イ 実績による負債利子の額(別紙二の9欄) 九五九万七〇〇〇円

実績による負債利子を租税特別措置法関係通達(以下「措置法通達」という。)六三(4)―一七(実額配賦法による場合の支払利子の計算方法)に基づいて計算すると、別紙三のとおり九五九万七〇〇〇円となる。

ロ 実績による販売費及び一般管理費の額(別紙二11欄) 二一五一万八二一七円

原告の本件資産の譲渡に要した経費の額は、間接に要した販売費及び一般管理費の金額六〇五万九九五八円のほか、直接要した諸税公課の金額八四五万二四三三円(原告から被告に提出された「土地譲渡に係る経費の実額配賦の内訳書」〔乙第五号証〕に記載された金額)及び支払い手数料一〇〇〇万円であるが、これら経費の額を措置法通達六三(4)―一六(実額配賦法による場合の販売費及び一般管理費の計算方法)により本件土地の譲渡に要した経費の実額配賦額を計算すると、別紙四のとおり二一五一万八二一七円となる。

(三) 本件更正の適法性にいつて

以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は二億〇五八八万三七七九円で、本件更正における所得金額と同額であり、また、課税土地譲渡利益金額は二億三五八九万九〇〇〇円で、本件更正における課税土地譲渡利益金額二億八五三万三〇〇〇円を上回るので、本件更正は適法である。

3  本件決定の根拠と適法性について

前記1、2記載のとおり、原告は、本件資産を本田技研に四億円で譲渡したにもかかわらず、これを松本工業に二億五〇〇〇万円で譲渡し、その後、松本工業が本田技研に四億円で転売したかのように記載した虚偽の内容の契約書を作成して事実を仮装し、これに基づき所得金額を過少に申告したものであり、このことは、国税通則法六八条一項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠蔽し又は仮装したことに該当するので、被告は、本件更正により原告が新たに納付すべき本税の額(昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満切り捨て)に一〇〇分の三〇(昭和六二年法律第九六号による改正前の同法六八条一項による)の割合を乗じた二六九三万二五〇〇円の重加算税を賦課決定したものであって、本件決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認する。原告は、本件資産を松本工業に二億五〇〇〇万円で売却したもので、本田技研に売却した事実はない。

2(一)(1) 同2(一)(1)(申告所得金額)の五五八八万三七七九円の金額は認める。

(2) 同2(一)(2)は否認する。原告は、本件資産を松本工業に二億五〇〇〇万円で売却したもので、本田技研に売却した事実はない。

(二) 同2(二)冒頭の事実のうち、原告が課税土地譲渡利益額を別紙二の申告額欄17記載のとおり七九六〇万円と申告したことは認めるが、その余は否認する。

(1) 同2(二)(1)の事実のうち、原告が本件建物の譲渡価額について四一六九万五九六六円と申告したことは認める。その余は否認する。

(2) 同2(二)(2)の事実は認める。

(3) 同2(二)(3)イの別紙三(実績による負債利子の計算)のうち、

1  昭和五三年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及びD欄の一一五〇七三〇〇〇、四四二三〇四〇〇の数値、本件土地に係る負債利子欄の当期支払利子七二八二四六九の数値については認める。

2  昭和五四年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及び本件土地に係る負債利子欄の一六四一一二四八の数値については認める。

3  昭和五五年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及びC欄の九一二八八八二四の数値、D欄の六一一二六五〇七の数値、本件土地に係る負債利子欄の一二〇三六八五九の数値については認める。

4  その余は不知。

同2(二)(3)ロの別紙四(実績による販売費及び一般管理費の額)のうち、間接に要した販売費及び一般管理費の金額が六〇五万九九五八円であること、支払い手数料が一〇〇〇万円であることは認めるが、その余は不知。

(三) 同2(三)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

第四証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張について

1  本件取消処分の適法性について

後記2で判断するとおり、原告は、本件資産を本田技研に対し四億円で譲渡したのに、これを松本工業に対し二億五〇〇〇万円で譲渡したかのように取引を仮装し、原告の本件事業年度の総勘定元帳及び損益計算書等の帳簿書類に譲渡収益の一部である一億五〇〇〇万円を計上せず、これに係る所得金額を隠蔽したものであり、右事実は法人税法一二七条一項三号に該当するものであるから、本件取消処分は適法である。

2  本件更正の根拠と適法性について

(一)  原告の本件事業年度の所得金額について

(1) 被告の主張2(一)(1)の申告所得金額五五八八万三七七九円については、当事者間に争いがない。

(2) 同2(一)(2)(本件資産譲渡利益計上もれ)について判断する。

イ 成立に争いのない乙第七(原本の存在・成立とも)、第一〇、第一一、第一三(後記認定に反する部分を除く)、第二七、第三〇号証(後記認定に反する部分を除く)、添付写真の部分を除き成立に争いのない乙第二二号証(後記認定に反する部分を除く)、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したもの認められるから真正な公文書と推定すべきで乙第六(後記認定に反する部分を除く)、第九(原本の存在・成立とも)、第一二、第一五(原本の存在・成立とも)号証、証人古賀勝利及び同松本裕之の各証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証(原本の存在・成立とも)、証人三橋功(後記認定に反する部分を除く)、同古賀勝利及び同岡村富史夫の各証言、原告代表者尋問の結果(後記認定に反する部分を除く)によると、次の事実が認められ、前掲乙第六、第一三、第二二、第三〇号証、証人松本裕之及び同三橋功の各証言、原告代表者尋問の結果中この認定に反する部分は採用しない。

原告代表者は、本件資産を使って経営していたパチンコ店が業績不振であったことなどの理由から、本件資産の売却を思い立ち、不動産業者アンカー株式会社の従業員である三橋功(以下「三橋」という。)に本件資産の売却先を探すように依頼した。同人は、これを受けて、不動産情報の専門誌である住宅新報の昭和五四年七月二〇日号から同年八月三一日号まで七回にわたり毎週物件広告を掲載したり(途中、本件資産の面積及び金額が減少しているが、最低売買価額は四億〇五〇〇万円である。)、物件案内状を自動車ディーラー等に発送したりしているが、右広告に際し、三橋は、その都度原告代表者の承諾を得て売却価額(坪当たり七〇万円)や売却面積を決定しており、また、本田技研が本件資産の購入を希望していることを原告代表者に伝えた。

本田技研の本件資産購入についての担当社員である古賀勝利(以下「古賀」という。)は、三橋から送付された物件案内状を見て、昭和五四年八月初旬に三橋に電話で連絡して現況等を聞くとともに、同月九日には町田市役所で調査をし、まだ、周辺業者において売買事例の調査を実施し、さらに不動産鑑定士に本件資産の鑑定を依頼したところ三億九八六六万三〇〇〇円との評価(但し更地としての評価である。)を得、本田技研の子会社で不動産の調査等を担当する開発総業株式会社によってなされた立地条件等の調査結果なども考慮したうえ、有利な買物であると判断し、本件資産を四億円で購入することに決定したものであり、同月一一日、三橋に対し、本田技研が本件資産を購入する意思を有している旨を告げた。ところが、同月二七日、三橋から、売主が松本工業となる旨の連絡を受けたので、古賀は、取引の安全を確保するために三橋に問い合わせると、松本工業が売主となることを原告代表者が承諾していること、原告と松本工業との売買契約書の写しが確認できたこと及び本件資産の売買契約締結の際に三橋が原告代表者を古賀に紹介することなどが確認できたので、所有権移転登記も確実に得られるものと判断し、同月三一日、本田技研は稟議書の決裁をしたものである。同年九月二〇日、平和相互銀行横浜西口支店貸付センターにおいて、売主側として松本工業の松本裕之(以下「松本」という。)及び原告代表者、買主側として本田技研の古賀及びホンダ開発株式会社の板橋敏之他が会し、平和相互銀行社員、司法書士等も立会って、松本工業から本田技研への売買契約書が作成され、同日、本田技研は合計三億円の小切手を支払い、原告から松本工業への売買契約書も同日作成された。そして、同年一〇月三〇日、本田技研本社ビルで、売主側として松本及び原告代表者、買主側として古賀及び板橋敏之他が立会い、残金一億円の小切手が支払われたものである。

右売買にあたり、三橋は、仲介手数料一〇〇〇万円を原告会社から受取り、松本工業及び本田技研からは仲介手数料を受け取っていない。

原告代表者は、本件資産の売買契約締結以前から、平和相互銀行横浜西口支店横浜貸付センターが原告に融資した金員の返済を求められていたが、昭和五四年八月二〇日ころ、同センターの所長中村博太郎に対し、担保物件である本件資産の売却代金をもって借入金を返済したい、その売却先は本田技研である旨説明していた。

その後、原告代表者は、本件資産の固定資産税・都市計画税を既に一年分支払っていたので、本田技研が購入した後は同社が負担すべきであると主張し、昭和五五年一月二三日、その分として三六万六六八〇円を同社から受け取り、その旨の領収証を発行した。

ロ 前掲乙第一五号証、成立に争いのない乙第一六、第二九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証の一〇、第二一号証の一一、証人松本裕之(後記認定に反する部分を除く)、同大澤康男、同古賀勝利の各証言及び前記認定の事実を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する前掲乙第一三、第二二号証、証人三橋功、同松本裕之の証言及び原告代表者尋問の結果は採用しない。

松本は、原告代表者の意図に従い、松本工業が本件資産の名義上の当事者となったことにより、本件資産の転売による利益一億五〇〇〇万円が同社に帰属するものとして課税関係が生じることを避けるため、過去に取引関係があった同業者の有限会社不動住販(以下「不動住販」という。)代表取締役土橋登及び勝美建設有限会社(以下「勝美建設」という。)代表取締役大澤康男に働きかけ、原告から本件資産を譲り受け、これを本田技研に転売して利益を得たのは不動住販及び勝美建設であるかのように取引を偽装し、松本工業、不動住販及び勝美建設の三者間で虚偽の念書と覚書を作成した。さらに松本は、協力者である不動住販及び勝美建設の法人税申告における利益の圧縮を図る必要から、右両社に架空の経費を計上させるために架空の領収書を用意し、それぞれに交付するという偽装工作を講じた。

本田技研は、代金四億円について、昭和五四年九月二〇日に金額二億五〇〇〇万円の小切手一通及び金額二五〇〇万円の小切手二通(合計三億円)を、同年一〇月三〇日に金額五〇〇〇万円の小切手二通(合計一億円)を振り出したが、原告代表者は松本と共謀し、このうち二億五〇〇〇万円の小切手一通に原告名義で裏書きをして、原告の預金口座(平和相互銀行元住吉支店)に振り込み、他の小切手については、不動住販及び勝美建設の名義で各々七五〇〇万円分(金額二五〇〇万円と金額五〇〇〇万円の小切手各一通ずつ)を裏書きし、うち昭和五四年九月二〇日振出の金額二五〇〇万円の小切手一通については、平和相互銀行横浜西口支店不動住販名義普通預金口座に振り込んだ後、同日二四四〇万円を払い戻し、同日振出のもう一通の金額二五〇〇万円の小切手については、鎌倉信用金庫横浜西口支店勝美建設名義普通預金口座に振り込んだ後、同日全額を払い戻し、同年一〇月三〇日振出の金額五〇〇〇万円の小切手二通(合計一億円)については、同月三一日右勝美建設名義普通預金口座に振り込んだ後、同月四八〇〇万円を、翌一一月一日に一〇〇万円を払い戻し、一〇月三〇日振出のもう一通の金額五〇〇〇万円の小切手については、同月三一日右不動住販名義普通預金口座に振り込んだ後、同月四七三五万円を払い戻し、合計一億五〇〇〇万円がそれぞれ不動住販及び勝美建設に帰属するかのように工作した後、即座にこれを引き出したものである。松本と原告代表者の共謀の事実及び右の各引き出を行った人物については、証拠上必ずしも明確ではないが、右認定の事実を総合すれば共謀の事実が推認され、また、前掲各証拠によれば、三橋は仲介手数料を取得しているのみであり、松本、土橋登及び大澤康男は手数料を取得しているのみであることが明らかなので、右各引き出しは原告が行ったものと推認される。

ハ これに対し、原告は、本件資産を松本工業に二億五〇〇〇万円で売却し、同額の小切手を取得したのみであって、その余の一億五〇〇〇万円については全く知らない、松本工業が本田技研に売却したことを原告が知ったのは昭和五五年一一月ころの原告の本件事業年度の法人税に係る第一回目の調査時点である等主張し、これに沿う原告代表者や証人三橋功の供述その他の書証があるが、これは、前記イ、ロで認定した事実からすれば到底採用しがたい。すなわち、原告の指示を受けた三橋は、本件資産を一貫して四億円を超える価格で住宅新報に掲載しており、その価格は妥当なものと判断できるのにもかかわらず、原告が右価格よりも大幅に安い二億五〇〇〇万円でこれを松本工業に売却するのはいかにも不自然であること、昭和五四年八月二七日になって初めて、三橋は、古賀に対し、売主が松本工業になることを告げているが、原告が真に松本工業に本件資産を売却したのであれば、もっと早い時期に売主の件を古賀に伝えるのが当然であること、同年九月二〇日の本田技研との契約及び同年一〇月三〇日の本田技研本社ビルでの残金支払のいずれにも原告代表者が立ち会っていること、三橋が原告から受け取った一〇〇〇万円の仲介手数料は、二億五〇〇〇万円の売買の手数料としては過大であり、むしろ売買が一回で金額が四億円であると考えた方が説明しやすいこと、原告代表者と本田技研は、昭和五五年一月二三日、本件資産の固定資産税等の清算をし、原告は、同社から清算金を受取り、その旨の領収証を発行しているのであるから、本件資産が本田技研に譲渡されたのを原告代表者が知ったのは昭和五五年一一月ころであるというのは明らかに矛盾していにことなどの点を考慮すれば、右各証拠は採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

ニ 右イロで認定した事実によれば、原告は、本件資産を本田技研に対し四億円で譲渡したにもかかわらず、これを松本工業に対し二億五〇〇〇万円で譲渡したかのように取引を仮装し、その差額一億五〇〇〇万円の譲渡益を益金の額に算入しなかったものということができる。

(二)  課税土地譲渡利益金額について

(1) 被告の主張2(二)冒頭の事実のうち、原告が課税土地譲渡利益金額を、別紙二の申告額欄17記載のとおり、七九六〇万円と申告したことは、当事者間に争いがない。

(2) 同(1)(土地譲渡による収益の額)の事実のうち、原告が本件建物の譲渡価額について四一六九万五九六六円と申告したことは、当事者間に争いがなく、また、前記(一)(2)認定のとおり、本件資産の譲渡収益のうち一億五〇〇〇万円が算入されていないので、これを加算すると、土地の譲渡等による収益の額は、被告主張額欄6記載のとおり、三億五八三〇万四〇三四円(本件資産の譲渡価額四億円から、原告の申告した本件建物の譲渡価額四一六九万五九六六円を控除したもの)となる。

(3) 同(2)(土地の譲渡等による収益の額に対応する原価の額)の事実は、当事者間に争いがない。

(4) 同(3)(直接又は間接に要した経費の額)イ(実績による負債利子の額)の別紙三(実績による負債利子の計算)の記載中、1 昭和五三年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及びD欄の一一五〇七三〇〇〇、四四二三〇四〇〇の数値、本件土地に係る負債利子欄の当期支払利子七二八二四六九の数値、2 昭和五四年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及び本件土地に係る負債利子欄の一六四一一二四八の数値、3 昭和五五年一月期欄のうち、A、B欄の各数値及びC欄の九一二八八八二四の数値、D欄の六一一二六五〇七の数値、本件土地に係る負債利子欄の一二〇三六八五九の数値は、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告が本件資産を昭和五二年一一月に取得した事実が認められ、さらに、原告が本件資産を昭和五四年九月に譲渡したことは、当事者間に争いがないので、右事実を前提にして、措置法通達六三(4)―一七(実額配賦法による場合の支払利子の計算方法)に基づいて計算すると、別紙三のとおり、実績による負債利子の額は九五九万七〇〇〇円となる。

同(3)ロ(実績による販売費及び一般管理費の額)のうち、間接に要した販売費及び一般管理費の金額が六〇五万九九五八円であること、支払い手数料が一〇〇〇万円であることは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五号証によれば、直接要した諸税公課の金額が八四五万二四三三円である事実が認められるので、右事実を前提にして、措置法通達六三(4)―一六(実額配賦法による場合の販売費及び一般管理費の計算方法)により、本件土地の譲渡に要した経費の実額配賦額を計算すると、別紙四のとおり、実績による販売費及び一般管理費の額は二一五一万八二一七円となる。

(三)  本件更正の適法性について

かくして、原告の本件事業年度の所得金額は、二億〇五八八万三七七九円となり、本件更正における所得金額と同額である。また課税土地譲渡利益金額は、二億三五八九万九〇〇〇円となり、本件更正における課税土地譲渡利益金額二億二八五三万三〇〇〇円を上回る。よって、本件更正は適法な処分ということができる。

3  本件決定の根拠と適法性について

前記認定のとおり、原告は、本件資産を本田技研に四億円で譲渡したにもかかわらず、これを松本工業に二億五〇〇〇万円で譲渡し、その後、松本工業が本田技研に四億円で転売したかのように記載した虚偽の内容の契約書を作成して事実を仮装し、これに基づき所得金額を過少に申告したものであり、右事実は、国税通則法六八条一項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠蔽し又は仮装したことに該当するので、被告は、本件更正により原告が新たに納付すべき本税の額(昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満切り捨て)に一〇〇分の三〇(昭和六二年法律九六号による改正前の同法六八条一項)の割合を乗じた二六九三万二五〇〇円の重加算税を賦課決定したものであるから、本件決定も適法な処分ということができる。

三  よって、原告の請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻次郎 裁判官 伊藤敏孝)

別紙一

〈省略〉

別紙二

課税土地譲渡利益金の計算

〈省略〉

別表三 実績による負債利子の計算

(措置法通達63(4)-17による計算)

〈省略〉

別紙四

被告が計算した実績による販売費及び一般管理費の額の計算

〈省略〉

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